黒鍵ペンタトニック「アイレ可愛や」(笠置シヅ子:唄 服部良一:作曲)
「アイレ可愛や」(笠置シヅ子:唄 服部良一:作曲)
前回、私は服部良一を中山晋平へのアンチテーゼ的存在であると論じました。戦前の昭和は、中山晋平を筆頭に、その後継に古賀政男が台頭する等、歌謡界は「四七抜き」の5音階での曲作りが保守本流といえました。一方、服部は洋楽的な曲作りを模索していたため傍流的な存在といえました。半音階的な「熊蜂の飛行」でも知られるリムスキー=コルサコフの弟子、ウクライナ人のメッテルに作曲を師事した服部。やはり半音階的な技巧を得意とします。例えば淡谷のり子のブルース路線では自然短音階と和声短音階を組み合わせ、そこで生じる半音の違いを巧みにメロディに組み込みます。なお戦後に作曲した「青い山脈」は自然短音階だけで日本独自の「明るい哀愁」のメロディを書き上げて、服部にとっても集大成的な作品になったといえるでしょう。
しかし話はそう単純ではありません。淡谷のり子同様、やはり服部が作曲を手がけた笠置シヅ子の曲の場合はどうでしょうか?NHK朝の連続テレビ小説「ブギウギ」での劇中歌で使用された上記の曲、歌詞のついた主要部は実は四七抜き長音階で出来ています。戦時中の1942年に発表されたこの曲は、南方戦線のインドネシアの民謡を元に作られました。劇中でも描かれた通り、戦中の慰問公演でも唄われ、戦後1946年に録音されました。明朗快活で天真爛漫な笠置には、5音階はとてもフィットするように思います。