- 春日部で40年。あなたの街の音楽教室。ミュージックファームぷりま

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ぷりま音楽歳時記 2-23.ト短調

ト短調

ト短調の調号は♭2つ。マッテゾン曰く、「優しく活気づける。満足を与え、胸を焦がす」とのこと。短調の中ではポジティブな印象の調といえるでしょう。

<ト短調の曲>

交響曲第40番(モーツァルト)

前回のエントリーでも触れたこの交響曲第40番。モーツァルトの交響曲中、短調で作られたのはこの曲を含めて2曲のみで、いずれもニ短調です(もう1曲は第25番です)。今回紹介するのは2006年11月、東京・サントリーホールでのアーノンクール指揮、ウィーンフィルハーモニーによる演奏です。

今月の一冊『モオツァルト・無常という事』

モオツァルト・無常という事

言わずと知れた名著。作中モーツァルトのト短調交響曲第40番やクインテット(弦楽五重奏曲)第4番にも触れています。

特にクインテット冒頭について「モオツァルトのかなしさは疾走する。涙は追いつけない。」との小林の名文句はあまりにも有名です。

とはいえ、私が若かった頃に初めて読んだ際、文章が難しくて内容がチンプンカンプンでした。今になって読み返してみたところ、ようやく文章の凄みが分かり始めたところです。歳を重ねて再読した折には、内容の理解がさらに深まるといいのですが…

猫ふんじゃった~楽譜の見た目にご用心~

小学校の音楽の授業の前後の休み時間など、教室のオルガンや鍵盤ハーモニカで、友だちたちがにぎやかに「猫ふんじゃった」を速弾きして遊んでいたのを思い出します。

私はピアノを習っていたにもかかわらず、その輪に加わることが出来ませんでした。というのもどう弾くのかを知らなかったからです。きっといつかレッスンで習うだろうと思っていたのですが、結局習うことはありませんでした。

その理由はきっとその譜面のせいにあるのでしょう。以下の譜面が「猫ふんじゃった」の冒頭です。

調号の数が♭(フラット)6つの変ト長調です。その譜面の強面ぶりにはつい近寄りがたいオーラがありつい敬遠したくなります。ですが、手遊びのつもりで指先の感触で鍵盤位置を覚えてしまえば、譜面要らずで案外弾けてしまうのです。

このように楽譜の見た目が難しそうでも、楽に覚えてしまう場合もあれば、楽譜が簡単そうに見えても覚えにくい場合もあります。例えば調号のない白鍵ばかりのハ長調の曲は、最初の譜読みは比較的楽に進みます。ですが、凹凸のない平坦な白鍵ばかりなので一度弾けても指先の感触で覚えるのに苦労することがあります。一方、調号の多い変ト長調では、「ド♭」が白鍵の「シ」と同じ位置になる等、譜読みがやや面倒です。でも黒鍵の凹凸に触れられるおかげで、一度弾けるようになってしまえば指先の感触で覚えてしまえるのです。

楽譜の見た目でつい弾き易さを判断したくなりますがくれぐれもご用心ください。

黒鍵ペンタトニック「恋」(星野源)

「恋」(星野源)

これまで3回に渡ってみてきた細野晴臣の音楽は、次世代にも大きな影響を与えました。特に直接的にその音楽的な影響を受けたのが、以前もこちらで取り上げた星野源氏です。

私が星野氏を認知したのは2008年。当時放送していた宮藤官九郎脚本のドラマ「未来講師めぐる」に星野氏が俳優として出演していました。劇中で歌う星野氏を見て、劇団「大人計画」の若手俳優?!ぐらいの認識でした。

おっとどっこい、星野氏は並行して音楽業に勤しんでいて、すでに2003年には、インストルメンタルバンド「SAKEROCK」のメンバーとしてインディーズながらCDデビュー。バンド解散後の2010年には細野氏が主宰するレーベル、デイジーワールドからソロ歌手としてメジャーデビューを果たします。

星野氏の人気がブレイクするのは2015年。4枚目のアルバム「イエローダンサー」で自身初のオリコンチャート1位を記録します。もちろんタイトルにはある「イエロー」は前回触れた細野氏が考案した「イエロー・マジック」に由来します。そして翌2016年に発表したのが、上記の曲。自身が主演のドラマ「逃げるが恥だが役に立つ」の主題歌です。エンディングでこの曲に合わせて踊る「恋ダンス」も話題になりました。

なおこの曲、前奏・サビ・後奏の主要部は、ほぼ5音階(ペンタトニック)で作られています。「Y.M.C.A(ヤングマン)」をはじめダンスチューンにはペンタトニックの曲が多く、ディスコ系の曲との相性が良いようです。

ぷりま音楽歳時記 2-22.ハ短調

ハ短調

ハ短調の調号は♭が3つ。マッテゾン曰く、「極端に愛らしいが、悲しい」とのこと。確かに短調の暗さはあるものの、どことなくチャーミングな佇まいを感じさせる調です。

<ハ短調の曲>

ピアノ協奏曲第3番(ベートーヴェン)

この曲の第1楽章はハ短調。オーケストラの荘厳な重々しさに対して、ピアノ独奏はどこか軽妙でとても愛くるしい気もします。今回紹介するのは、1959年録音、グレン・グールド(ピアノ)、バーンスタイン(指揮)、ニューヨークフィルハーモニーの演奏です。

今月の一冊『小澤征爾さんと、音楽について話をする』

小澤征爾さんと、音楽について話をする

対談本は読み易くとても好きですが、その中でも特におすすめなのがこの1冊です。

ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番について、ピアニスト/指揮者の組み合わせの違いで聴き比べをしていく「第1回」は特に面白いです。グールド/バーンスタインの他、グールド/カラヤン、ゼルキン/バーンスタインの組み合わせで演奏を比較しています。

同じ曲でも演奏者が違えばその味わいも変わる。これぞクラシック音楽の妙です。

鍵盤の奥行き~白鍵と黒鍵の凹凸

ピアノの鍵盤の「奥行き」については普段なかなか意識しないでしょう。鍵盤そのものの奥行きは約15cmです。白鍵だけの手前の部分は約5㎝に過ぎず、黒鍵と白鍵の混ざった奥の部分が約10㎝なので、奥は手前の倍の長さになります。

例えばスキー場では、初心者は傾斜が緩く平らなコースがやはり滑りやすいです。ですが一定のレベルに達すれば、傾斜もきつくコブがある凹凸なコースで滑った方が楽しいわけです。ピアノでも同様で、習い始めたばかりは、手前1/3の平らな白鍵で弾いた方が楽。だから初心者は白鍵だけのハ長調の曲を習うことが多いのです。ですがピアノの醍醐味はやはり白鍵と黒鍵が混在する凹凸な奥の2/3にあります。

そこを弾きこなすのはそう簡単ではありません。指先の凹凸ばかりに気をとられると手全体のバランスも崩れてしまいます。特に親指で黒鍵を弾く時が要注意です。親指を鍵盤と縦に平行に打鍵すると残りの指が鍵盤から離れ、手全体のバランスも崩れてしまいます。肘も下がり、脇も閉じて体全体も硬くなってしまいます。

そこで下図のように親指を横向きに打鍵すれば手全体のバランスが崩れにくくなります。親指は5指のなかで一番力が強く、特に大人の場合は鍵盤に触るだけでも十分な音が出ます。くれぐれもムキにならないよう気をつけましょう。そして残りの指は奥の方(白鍵と黒鍵の混在する凹凸の部分)で打鍵すれば、親指は鍵盤上に乗せやすくなります。

黒鍵ペンタトニック「イエローマジックカーニバル」(作曲:細野晴臣)

「イエロー・マジック・カーニバル」(ティン・パン・アレー 作曲:細野晴臣)

1978年に、Y.M.O.(イエロー・マジック・オーケストラ)を結成するまでの期間で、細野晴臣の作品で触れておきたいのが、『トロピカル三部作』(「トロピカルダンディー」「泰安洋行」「はらいそ」)です。特に3枚目の「はらいそ」は「ハリー細野とイエロー・マジック・バンド」名義で、直後のY.M.O.の萌芽ともいえる作品でした(この作品にはY.M.O.のメンバーとなる坂本龍一、高橋幸宏の両名も参加)。一連の3作品は非西洋的でエキゾチック(異国情緒的)、どこか「民謡」的な要素も含んでいたように思います。

さて上記の曲は細野から「イエロー・マジック」なるアイディアが飛び出した最初の曲です。トロピカル三部作と同時期の1975年「ティン・パン・アレー」名義で発売されたアルバム「キャラメル・ママ」に収録されました。細野は魔術を引き合いに『“黒と白”という西洋の分け方に日本人は入れない、と思ったわけ。特に音楽やってるぼくの場合、西でも東でもない状態に片足突っ込んでいる真っ只中なんで。じゃあ、自分はどこなのか、と悩んだな』と述懐。そして子供の頃に読んだ西遊記を思い出し『西遊記には黄魔大王というのも出てきたなあ、なんてことを思い返して、黄色いイメージが浮かんだ。黄魔術。』(CD「HOSONO BOX」ライナーノーツP.25)かくのごとくイエロー・マジックが誕生するのです。

なお上記の曲、最初のAメロディは5音階(ペンタトニック)で作られています。5音階と黄魔術、その関係は浅からずといえそうです。

ぷりま音楽歳時記 2-21.ヘ短調

へ短調

ヘ短調の調号は♭4つ。マッテゾン曰く、「温和で、感傷的。心配と絶望」とのこと。個人的にはこのヘ短調が全調の中で最も色彩が暗く、重い印象を受けます。「心配と絶望」というマッテゾンの意見に深く同意します。

<ヘ短調の曲>

ピアノソナタ第23番「熱情」ベートーヴェン

この曲の第1・3楽章がヘ短調です。第1楽章の途中でヘ長調に転調して、再びヘ短調に劇的に戻ってきます。今回紹介するのは1970年ドイツ・ボンのベートーヴェン・フェスティバルでのクラウディオ・アラウの演奏です。

いきいきピアノフォーラムVOL.6参加者募集

これまで教室生のみ対象としていた講座を外部聴講も募集することにしました。

今回は和音伴奏の基礎である「コード」をテーマにします。もしご興味をお持ちいただけましたら是非ご参加ください。

こちらから、「お問合せ種別」(その他)「ご希望のコース」(ピアノ)にチェックを入れていただき、「お名前」「電話番号」「メールアドレス」をご記入の上、「お問合せ内容」に(講座参加希望)とご記入の上お申し込みください。

今月の一冊(本)映画『パーソナルソング』(2014年)

『パーソナルソング』

今回紹介するのは本ではなく映画です。

「音楽のチカラが、人生の喜びを取り戻す。」とのキャッチコピーのドキュメンタリー映画です。介護施設で歩行器なしでは生活もままならない老人が、懐かしい音楽を聴くとリズムに合わせて踊りだしてしまうシーンが特に印象的でした。前回のエントリーで記した「私のお気に入り」の音楽がどのように真価を発揮するかを思い知った作品です。

限りある人生、出来るだけ健康でいたいもの。そこで少しでも音楽を活用させたいものだと考える今日この頃です。

「私のお気に入り」を探すのを大切にしましょう

前回のエントリーの続きです。音楽を聴くことが「個人的」な経験になったと記しました。このことは演奏することにも当てはまるのかもしれません。合奏せずとも自己完結できるピアノのような楽器の場合は特にそうかもしれません。

そうなると他者と演奏技術の優劣を比較することにはあまり意味がないように思えてしまいます。それより「私のお気に入り」のメロディ・響き・リズム等を探していく、そして自分自身が心地よく感じる演奏を目指すことが大切なのではないかと思うようになりました。

自分自身を知るためにも他者との比較や評価があった方が自分の立ち位置を相対化できるという筋の通った意見もあると思います。ですが私はそれには反対です。というのも「私のお気に入り」とは必ずしも筋の通った理知的なものではないと思うからです。「私のお気に入り」どちらかといえば、理屈では表せない感性に下支えされていると思うからです。

理屈抜きの「私のお気に入り」を他者から理知的に点数化されたりするのは、どんなに頭で理解が出来たとしても、心底、体で納得できるものではないでしょう。その上、順位付けなどされてしまえば、面白いのはせいぜい上位の数名で、選外のその他多くは、行き場のない気持ちを背負ってしまうと思います。そこで背負いこんだトラウマは案外ダメージが深く、その回復はそう容易ではないように思います。

やはり「私のお気に入り」を探すのが大切です。そしてそれを応援すのがこの教室の仕事だと思っています。

映画「The Sound of Music」から「My Favorite Things」

黒鍵ペンタトニック 「風の谷のナウシカ」(安田成美 作曲:細野晴臣)

風の谷のナウシカ」(安田成美 作曲:細野晴臣)

アルバム「風街ろまん」で作曲に開眼した細野は、「はっぴいえんど」解散後もソロや音楽集団「ティン・パン・アレー」等で精力的に活動していきます。そして1978年に結成した「Y.M.O.(イエロー・マジック・オーケストラ)」で世界的な人気を獲得することになります。

細野の音楽的なインテリジェンスは非常に高く、博覧強記で知られた同じく「はっぴいえんど」のメンバーであった大滝詠一ですら「細野さんには敵わない」と舌を巻くほど。その豊富な音楽的な引き出しを活かし、歌謡曲での作曲でも細野は活躍します。歌唱力のある歌手には実力相応の難曲を提供。松田聖子には、転調著しい「天国のキッス」、中森明菜には独特のコード進行で厄介な「禁区」といった具合です。ただし難曲にもかかわらずポップに聞こえてしまうのが細野マジックと言えるのかもしれません。

ただ細野の作曲術の真骨頂は、歌唱力があまり高くない歌い手に提供する曲にあると思います。自身が歌唱で苦労した経験があるせいか、歌い手に優しい曲を作るのです。その好例が上記、後に女優として成功する安田成美の歌手デビュー曲です。歌い慣れない安田が安心して歌えるためか、冒頭のAメロディとサビの歌いだしはペンタトニック(5音階)で出来ています。そしてやや不安定な歌唱をもサウンド全体でつつみ込み魅力的な曲に仕上げてしまうのです。これは前回紹介した「風をあつめて」でも共通するとと同時に、こうした歌い手への配慮は筒美京平の作曲術にも通底すると思います。なおこの曲の編曲は筒美からも全幅の信頼を得ている萩田光雄が担当しています。

今回は今年2024年に発表された再録バージョンを紹介します。発表されて40年、名曲は色あせません。

ぷりま音楽歳時記 2-20.変ロ短調

変ロ短調

変ロ短調は調号の♭が5つ。黒鍵を全て使えるので、ピアノ曲に使われることが多い調です。ただし平行調の変ニ長調の人気に比べると雲泥の差でその使用頻度はぐっと下がります。やはり響きが重くなるのを嫌って、作曲家も使用をためらうのかもしれません。

<変ロ短調の曲>

弦楽のためのアダージョ」(バーバー)

この曲は、ケネディ大統領の葬儀でも使用されたことでも有名。悲惨なベトナム戦争を描いた映画「プラトーン」でも使用されています。今回紹介するのは1968年アメリカ交響楽団で指揮するストコフスキーのリハーサル映像です。

 

今月の一冊(本)映画『風の谷のナウシカ』(1984年)

『風の谷のナウシカ』

風の谷のナウシカ [DVD]

今回紹介するのは本ではなく映画です。紹介するのもはばかれる程の大名作です。

当初この映画の音楽(主題歌)を担当する予定だったのが、先月紹介した細野晴臣。諸事情があり、当時はまだ無名で駆け出しの久石譲に交代しました。久石氏はこの作品が出世作となり、ジブリはじめ、北野武監督の映画等でも音楽を担当し、日本を代表する名劇伴作曲家となります。(もし交代せず細野氏がこの映画の音楽担当を務めていたら、ジブリ映画はどうなっていたのだろうとたまに空想したりもします。)

「公共的」音楽体験のありがたさ

ソニーのウォークマンが発売されたのが、40年以上前の1979年。小型の機器でしたが、音楽の従来からのあり方を大きく変えた革命的で画期的な製品でした。(こちらの記事もぜひお読みください。)

従来、音楽を聴くには「場」が必要で、それはどこか「公共的」な体験でした。その場でいる人で聴く(聞こえる)ことが前提でした。ですがウォークマンでは、イヤホン等で一人で音楽を聴ける上、持ち運びも可能、「場」を必要とせずどこでも聴けるのです。「公共的」な体験だった音楽を聴くことが、「個人的」な体験へと変化したのだと思います。

メディアがカセットからCDやMDなどを経て、スマートフォンに変化した現在、いっそうその個別化は顕著だと思います。例えば、今やイヤホン等は、キラ星の如く多種で、数十万する高価なものから、百均で買える廉価なものまで、お洒落でカラフルなものから、業務用の武骨なものまで、実に百花繚乱。個々のライフスタイルに応じて音楽を聴けるのです。当然、思い入れのある曲もそれぞれ異なってきますので、昨今、社会全体で流行する曲が少なくなってきているのもうなずけます。

かつて当然だった「公共的」な音楽体験は、今や希少でむしろ特別になってしまったのです。コンサート・ライブ・発表会・複数人でのカラオケ等がそうしたものに該当するでしょう。特にコロナが流行中は、これらはかなりの制限を受けてしまったため、「公共的」な音楽体験の貴重さをあらためて身に染みたのでした。当教室も発表会等のイベントでみんなで楽しむ「公共的」な音楽体験の場をつくっていきたいと思います

 

黒鍵ペンタトニック 「風をあつめて」(はっぴいえんど:細野晴臣)

「風をあつめて」(はっぴいえんど

前々回のエントリーで触れた「はっぴいえんど」に話は戻ります。

1971年、アルバム「はっぴいえんど」(通称ゆでめん)が発表され、大滝詠一のボーカル曲がバンドを牽引する中、ひそかに苦しんでいたのがリーダーの細野晴臣でした。

細野はスタジオミュージシャンとしても日本屈指の名ベーシストですが、作曲した本人がマイクをとるこのバンドで、生粋のボーカリストである大滝と歌唱力で比べられるのはやはり気の毒といえました。細野の低声を活かしつつも、楽器(バンド)との絶妙なサウンド・バランスで曲を構築する細野ボーカル曲のスタイルを徐々に構築していきます。

そして興味深いのは、大滝の作った曲には、二六抜き短音階(マイナーペンタトニック)の曲が多いのに対し、細野の作った曲は四七抜き長音階(メジャーペンタトニック)の曲が多いのです。ただ四七抜き長音階だとどうしても田舎節になりやすいのが玉にきずと言えます。

「はっぴいえんど」のセカンドアルバム「風街ろまん」に収録された、このバンドの代表曲ともいえる上記の曲で細野のボーカル曲のスタイルが確立したといえます(この曲はほぼ四七抜き長音階の曲です)。実はこの曲は、難産の上、誕生しています。当初は似た内容の詞にカントリー調の全く異なるメロディの曲で録音まで済ませました(こちらの曲も四七抜き長音階です)。ですが、その出来に納得いかず、一旦はお蔵入りとなります。詞曲とも再度練り直した結果、シティポップの祖ともいえるこの曲が生まれたのです。四七抜き長音階なのに都節、これまでの歌謡曲にはないまさに「ニュー・ミュージック」と言えました。

ぷりま音楽歳時記 2-19.変ホ短調

変ホ短調

変ホ短調の調号は♭が6つ。♯6つの嬰ニ短調と異名同音調、どちらも同じ音構成なのに、変ホ短調の方が使用頻度が高い印象です。嬰ニ短調は第7音(導音)がダブルシャープになることが多いので人気がないのかもしれません。

<変ホ短調の曲>

ポロネーズ 第2番(ショパン)

ショパンのポロネーズの中では、やや地味な印象のこの曲。変ホ短調ならではのくぐもった響きから「シベリアポロネーズ」と呼ばれることも。今回紹介するのは1964年のA.ルービンシュタインの演奏です。

今月の一冊 『細野観光1969-2021オフィシャルカタログ』

今月の一冊 『細野観光1969-2021オフィシャルカタログ』

2019年に開催された「細野晴臣デビュー50周年記念展」のオフィシャルカタログの増補版を今回は紹介します。細野晴臣氏は半世紀以上の長い音楽家としてのキャリアを誇ります。しかもその内容も日本語ロックの「はっぴいえんど」、テクノポップの「Y.M.O」で活動する等、大変多岐に渡るので、文書だけだとなかなか把握しにくいところがあります。それが図録であれば、ヴィジュアルで全容が眺められ、まさに絶好のガイドブックといえます。

展覧会へ行くと、つい図録が欲しくなってしまいます。手元に展覧会そのものがあるようで、とてもお得に感じられます。

ピアノで「カンタービレ」に弾く

知っていそうで実は知らない音楽用語「ソナタ」。その意味はイタリア語で「器楽曲」です。そして「ソナタ」の対義語が「カンタータ」です。その意味は「声楽曲」です。「カンタータ」から派生した用語がおなじみの「カンタービレ」です。その意味は「歌うように」です。

このように西洋音楽では、「器楽」と「声楽」を対の関係で扱います。そしていつでも「器楽」は「声楽」に憧れる関係にあります。現に「器楽のように」という意の音楽用語は見たこともありません。というのもキリスト教(特にカトリック)では教会内での器楽演奏は長らくタブー視されていました。教会内で許されていたのは、人の声、「声楽」のみだったのです。今では協会の象徴となったパイプオルガンですら、その使用は長年、公然の秘密だったのです。ピアノの鍵盤の機構もオルガン由来ですが、オルガンに関する記録が乏しいため、どのように鍵盤の機構が出来たのか、その起源は今だ謎のままです。

さてピアノの詩人・ショパンの流麗なメロディに影響を与えたのはベッリーニのオペラのアリアと言われます。ショパンはピアノで「ベルカント(美しい歌唱)」を目指したのです。ですが「カンタービレ」にピアノを弾くのは容易ではありません。ピアノは打弦楽器、一度打鍵すれば、音はすぐ減衰します。歌のように途中で息は膨らみません。やはり歌うように弾くには、様々な創意工夫が欠かせません。ピアノで「カンタービレ」に弾くことは、いつまでもついてまわる永遠のテーマかもしれません。一歩ずつでもいいのでそのテーマに近づきたいものです。

英語ですが「オルガンの起源」についての動画です。

黒鍵ペンタトニック 「春よ、来い」(松任谷由実)

「春よ、来い」(松任谷由実)

さて「春よ来い」がタイトルになる曲を紹介するのはこれで3回目(正確には今回の曲名には句点が入ります。)。やはり春を待ち乞う気持ちはつい5音のペンタトニックで表したくなってしまうのでしょう。

さてこの曲の作者は「ユーミン」こと松任谷由実です。ユーミンと前回触れた「はっぴいえんど」とは縁が深く、荒井由実としてデビューしてからしばらくバックバンドを務めたのが、解散した「はっぴいえんど」の細野晴臣・鈴木茂が新たに立ち上げた音楽ユニットであるキャラメル・ママ(ティン・パン・アレー)。ちなみにドラムに林立夫、キーボードに松任谷正隆が参加します。ジブリ映画でもおなじみの「ひこうき雲」「やさしさに包まれたなら」の演奏はこのメンバーの手によります。さらに「はっぴいえんど」の元ドラマーで、作詞家に転身した松本隆が実質的にプロデュースした松田聖子プロジェクトにもユーミンは、呉田軽穂のペンネームで作曲陣に加わり、「赤いスイートピー」等のヒット曲を連発。

さてこの曲は1994年に発表された松任谷由実名義のシングル曲です。曲全体は自然短音階(ラシドレミファソラ)で出来ています。自然短音階の名曲は多く、藤山一郎「青い山脈」、ジュディ・オング「魅せられて」等、枚挙にいとまがありません。そしてこの曲はサビで二六抜き短音階となり、上記の譜面は黒鍵だけで弾けるのです。

ぷりま音楽歳時記 2-18.嬰ト短調

嬰ト短調

嬰ト短調の調号は♯が5つ。黒鍵を5つ全て使うので、ピアノ曲に人気がありそうだけれど今一つです。導音(第7音)ファがダブルシャープになることが多く、譜読みが面倒になるのも不人気の原因かもしれません。

<嬰ト短調の曲>

展覧会の絵「古城」(ムソルグスキー

組曲「展覧会の絵」で「古城」と「ビドロ(牛車)」が嬰ト短調。管弦楽に編曲する際、ラヴェルはピアノ原曲通りに嬰ト短調のまま編曲します。管弦楽にとって鳴らしにくい調にも関わらず原調の嬰ト短調のまま編曲したのはやはり驚きです。今回はピアノ原曲版を、1951年録音、ホロヴィッツの演奏を紹介します。

今月の一冊 『キャンティ物語』(野地秩嘉著)

今月の一冊 『キャンティ物語』(野地秩嘉著)

ユーミンと言えば、やはり飯倉のレストラン「キャンティ」を思い浮かべます。オーナーの川添浩史・梶子夫妻に可愛がられたユーミン。2枚目のアルバム「ミスリム」では、梶子所有のピアノの前で、梶子が用意したドレスをまとったユーミンのポートレイトがアルバムジャケットになりました。

ユーミンをはじめ数多くの文化人が通う社交場でもある「キャンティ」のノンフィクションを今回は紹介します。

インナーマッスルを鍛えてみよう

ウォーキングや足ツボもみのおかげか、ここ数年、ギックリ腰にならずに過ごせています。ただまだ腰が抜けそうになる一歩手前でギリギリ何とかとどまる瞬間もあり、まだまだ油断できない状況と言えそうです。

そこで腰回りを鍛えて、筋肉のコルセットを身にまとおうと思い、腹筋運動でもしてみるかと腰を上げてみました。学生時代は軽々出来ていたので簡単に出来るであろうとタカをくくっていました。ところが、実施にやってみると全く歯が立たず。いわゆる腹筋運動であるシットアップは一回もできず。その衰えぶりには我ながら愕然としました。さすがにこのままではマズいと思い、何かできることはないかと探してみました。

先ず取り組んでみたのが「フロントプランク」です。うつ伏せの状態から身体を浮かせ、その姿勢をキープさせるトレーニングです。まずは「30秒キープ、10秒休憩」の3セットから始めてみました。これなら楽々できると思いましたが、そうは問屋が卸しません。30秒キープですらやっとの思い、そしてその翌日には結構な筋肉痛。情けない限りですが、やはり現実を直視せざるを得ません。

とはいえ、このプランクは布団の中でも出来るので、起床直後、就寝直前のルーティンになりました。「腹横筋」(インナーマッスル)に効果があるということなので、しばらく継続したいと思います。腹筋を6パックに割るなんていうのは夢のまた夢、まずはシットアップを1回でも成功させることを目標にします。

黒鍵ペンタトニック 「春よ来い」(はっぴいえんど 作曲:大滝詠一)

「春よ来い」(はっぴいえんど

前回に引き続き大滝詠一です。大滝詠一は伝説の「日本語ロック」バンド、「はっぴいえんど」のボーカルでデビューします。他のメンバーはベース、後にY.M.O.でも名を馳せる細野晴臣、ドラム、後に人気作詞家となる松本隆、ギターは編曲家・スタジオミュージシャンとして活躍する鈴木茂の4名です。

松本が作る日本語詞に、残りのメンバーで作曲し各々が歌うのが、このバンドの基本形態でした。そして1970年のデビュー当時、バンドの方向性を決定づけたのが、大滝の作曲術だと考えます。従来の歌謡曲にない和音進行や転調と難しい技術を駆使しますが、かといって聞き馴染みしやすいメロディを紡ぎ、まるで魔法のような作曲術といえます。そこで肝になるのが曲中で使用される音階です。特に初期の大滝作「12月の雨の日」「春よ来い」「かくれんぼ」のメロディには一般的な長調や短調ではなく、「レ」から始まる「ドリア旋法」(レ ミ ファ ソ ラ シ ド レ)が使用されています。なおこのドリア旋法はイギリス民謡の「グリーンスリーブス」や日本の「君が代」でも用いられています。

さらに「春よ来い」「かくれんぼ」は「二六抜きのドリア旋法」(レ ファ ソ ラ ド)で二六抜き短音階と同じ音程構造になります。ですから上記、黒鍵だけでメロディが弾けるのです。

半音程がない5音階での曲では、ロマンティックな声質も持ち合わせる大滝詠一のシンガーとしての魅力が最大限引き出せず、少し勿体ないようにも個人的には思います。

ぷりま音楽歳時記 2-17.嬰ハ短調

嬰ハ短調

嬰ハ短調の調号は♯が4つ。管弦楽では響きにくい調なので人気は今一つですが、黒鍵4鍵を活用できるのでピアノではロマン派以降の曲でよく使われています。

<嬰ハ短調の曲>

前奏曲 嬰ハ短調op.3-2「鐘」(ラフマニノフ)

浅田真央選手がトリノ五輪のフリー演技の際、使用したことでも有名なこの曲。ラ・カンパネラ(リスト)は♯5つの嬰ト短調。黒鍵の音色は鐘の音に近いのかもしれません。今回は作曲者ラフマニノフ自身による1919年の録音を紹介します。

 

今月の一冊 『ニッポンの音楽(増補決定版)』(佐々木敦)

『ニッポンの音楽(増補決定版)』(佐々木敦)

昨今の出版不況で文庫・新書であってもすぐに絶版になってしまう中、元々新書だったものが文庫として増補版で復活したのがこの本です。

昭和40年代の「はっぴいえんど」を出発点に「J-pop」がどのように生まれ、変化し、そして現在に至っているのか?おおよそ日本のポピュラー音楽の半世紀の歴史を眺めています。

今度は絶版にならず何とか踏みとどまってほしいものです。

アルファベットのコードネームとローマ数字の和音記号

最近、アナリーゼが楽しくて仕方ありません。アナリーゼとはドイツ語、訳すと「分析」となります。私はとりわけ曲中でどのように和音が使われているかに興味があります。和音の使い方にはオーソドックスな定石もあります。ですが、常にその通りではありません。定石の外し方も作曲家毎、時代毎等で異なってきます。その違いをつぶさに見ることで、それぞれの曲のオリジナリティを改めて思い知らされるのです。

アナリーゼの際、私は大譜表の上部にアルファベットのコードネーム、下部に和音記号を付します。コードネームは和音の絶対値を示すのに便利で、和音の明暗・色合い等読み取れます。ローマ数字の和音記号は和音の相対値を示します。文法でいえば、主語・述語のような和音の機能が分かります。絶対値を示すコードネーム、相対値を示す和音記号を駆使すると和音分析が断然楽になります。

そんな面倒なことをせずに、ただ楽譜通りに指を鍵盤にたどらせれば曲は弾けます。でもそれだけでは、は「もったいない」」と思ってしまうのです。楽譜は作曲家が残してくれた過去からのメッセージです。ただただ私はそれを余すことなく味わいたいだけなのです。場合によっては勘ぐりすぎで作曲家の意図から外れることもあるかもしれません。でもあれこれ自由に想像を膨らませることが出来ることこそ、現世を生きる特権だと勝手に思っています。

ただ分析をするだけで満足しても仕方ありません。やはり実際に弾いて体感で得られるインスピレーションこそ何より大切にしていきたいと思います。

黒鍵ペンタトニック 「イエローサブマリン音頭」(PD 大瀧詠一 )

イエローサブマリン音頭」(PD 大瀧詠一

前回も触れたように昭和末ぐらいまでは地域の夏の盆踊りも盛んで新作音頭も作られたものでした。

とりわけその中で取り上げたい新作音頭の作者が大滝詠一です。「風立ちぬ」「夢で逢えたら」等のヒット曲の作者として知られ、自身のアルバム「ア・ロング・バケイション」も大ヒットします。そしていまだにJポップの金字塔として君臨する作品でもあります。

ですがこの直前に大滝が手がけたアルバムが「レッツ・オンド・アゲン」という新作音頭を中心にしたアルバムなのです。残念ながらまるでうれず、稀代の迷盤として一部に熱く支持されるにとどまります。そこで次こそは「売れる音頭」を目標に目をつけたのが、かのビートルズの「イエローサブマリン」。「ア・ロング・バケイション」がヒットした翌1982年にこの曲を音頭に仕立てます。

大滝はプロデューサーとして、この曲中に「軍艦行進曲」「おけさ節」等の日本の古い曲や「抱きしめたい」「デイトリッパー」等、ビートルズの曲の一部を引用することを提案します。それを実行し、実際に編曲をしたのは、大滝が敬愛するクレイジーキャッツでおなじみの萩原哲晶(ちなみにこの作品が遺作に)。日本語訳詞は大滝の盟友である松本隆が担当します。

この曲は中山晋平がいうところ、日本と西洋の「あひ」を狙った和洋折衷の大傑作カバーといえるでしょう。なおこの曲は四七抜き長音階が基調ですのでほぼ黒鍵だけで弾けます。

ぷりま音楽歳時記 2-16.嬰へ短調

嬰へ短調

嬰ヘ短調の調号は♯が3つ。マッテゾン曰く、「苦悩・より活気がなくなる感じ」だそう(私はそれにはちょっと違和感を感じますが…)。管弦楽では響きにくい調ですが、ピアノではよく使用されます。

<嬰へ短調の曲>

ハンガリー舞曲第5番(ブラームス

ピアノ連弾でおなじみのこの曲。ピアノでは嬰ヘ短調ですが、管弦楽用に編曲する時は半音音上のト短調にするのが一般的とのこと。今回紹介するのはハンガリー出身のピアニスト、シフラ編曲によるピアノ独奏版。演奏はもちろんシフラ自身によるものです。

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