正当にこわがること
以下当時のことを忘れないように、「おたより」2020年4月号(第7号)の内容を掲載いたします。
新年度が始まりました。とはいえ、新型コロナウィルスの影響で年度末に予定していた発表会も延期するなど、例年とは異なる心持ちで臨むことになりました。今回の事では社会全体に多大な影響がありますが、対面コミュニケーションを基本とする音楽にとっても事態は深刻です。ライブ・コンサートそしてレッスンも。状況も日毎に悪化し、どうなるか見通しも立ちませんが、このまま長期に及ぶとなると…。正直、想像を絶します。
つい、戦前の物理学者で随筆家の寺田寅彦の言葉が思い出されました。1935年の浅間山の噴火騒動を眼前に、寺田は「ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたり、政党にこわがることはなかなかむつかしいことだと思われた」と書き記しています。(寺田は理学博士号を「尺八の音響学的研究」という論文で取得するほど、音楽にも造詣の深い人物でした。)
近年、人知の及ばぬ自然災害に悩まされ続けています。今回のような事態は、今後もきっと起こるでしょう。そこで「正当にこわがる」ことは、そう容易ではありません。この緊急事態で教室を一時閉校し、自粛要請を受け入れるのも、その一環と考えております。
自然への畏敬を抱きつつも、ただ立ちつくすのではなく、再開後の次なる展開に希望の火を灯したいと思っています。先人が築き上げてきた豊かな音楽文化。そこに末席ながら連なる私に出来ることは些末ですが、細々でも引き継ぎ貢献できるよう、努めていきたいと思います。
(2020年4月第7号)