映画を「観」ないで「聴」く楽しみ
最近、2010年公開の映画「シャッター・アイランド」(M.スコセッシ監督、L.ディカプリオ主演)を改めてDVDで観直しました。ミステリー映画で怖いはずなのですが、私は話そっちのけで劇伴音楽にやはり夢中でした。劇伴音楽には、ジョン・ケージ、ペンデレツキ、リゲティ等々、一般的な認知度が高いとは言えない現代音楽の作曲家による作品が用いられているのです。世の中にそう多くはない現代音楽愛好家の私にとっては、映画のBGMとはいえ、2時間強も現代音楽を堪能できる本当に有り難い機会で、異様に気分がアガったのです(映画はミステリー映画なのにもかかわらず)。そして風変りにも映画を「観」ないで「聴」いていたのです。
聞きなじみのしない抽象的現代音楽が劇伴の多くを占める中、クライマックスのシーンで、とてもメロディアスな室内楽の調べが流れました。いったい誰の作品か?エンドクレジットを確認すると、後期ロマン派の作曲家、マーラーのピアノ四重奏曲で、若き日の習作で珍しい小品でした。大規模なオーケストラ作品で知られるマーラーの意外な一面を垣間見た気がしました。
そして映画全体で抽象的な音楽が覆う中、一輪の花のような美しい旋律、このセンス溢れる選曲をした音楽監督がロビー・ロバートソンです。ボブ・ディランのバックバンドを務め一躍有名になった「ザ・バンド」のメンバーです。「ザ・バンド」の音楽からは、一見ほど遠いはずの現代音楽での選曲、ロビー・ロバートソンの音楽に対する造詣の深さに興味を持った私は、ザ・バンドからボブ・ディランとこの映画の公開当時に立て続けに聴き漁ったのを思い出しました。