黒鍵ペンタトニック 「木綿のハンカチーフ」
前回の今月の一冊で取り上げた『ニッポンの編曲家』で歌謡曲における編曲家やスタジオミュージシャンにスポットライトを当てましたが、やはり何と言ってその中心は作曲家です。特に2020年10月に亡くなった筒美京平は、まさに「歌謡曲の大巨人」でした。氏の曲は私にとって幼少期からテレビなどで浴びるように聴いてきました。いわば私のルーツミュージックといっても過言ではありません。ですから以後、ここでは敬愛を込め「京平先生」と呼称します。
京平先生の作る曲は、世界最先端で流行するサウンドを取り入れつつも、日本人になじみやすいメロディであることが特徴の一つといえます。いわば洋食メニューなのに、ご飯とみそ汁がでてくる、いわば「定食」のような親しみがあります。そして数多くあるヒット曲では、ペンタトニック(5音階)で作ったものもかなりあり、この「黒鍵ペンタトニック」では、今後何曲も紹介することになるでしょう。
そのスタートを飾るのにふさわしいのが、「かすかべ親善大使」である太田裕美さんが歌う「木綿のハンカチーフ」でしょう。この曲は男女の手紙の往復でストーリーを紡ぐ松本隆氏の画期的な歌詞が注目されますが、京平先生の作曲技術も負けていません。冒頭の都会へ旅立つ男性のパートには、素朴なペンタトニックを充て(上記譜面)、田舎に残っている女性が登場するサビになると通常の7音階に切り替わり、男女の心象風景のコントラストを見事にメロディで表現しています。
このペンタトニック(5音階)と通常の音階(7音階)で対比する方法は、「上を向いて歩こう」とも共通し、ヒット曲の黄金パターンの一つといえるでしょう。