- 春日部で40年。あなたの街の音楽教室。ミュージックファームぷりま

ピアノ・声楽・ギター・バイオリン・フルート・クラリネット

黒鍵ペンタトニック 「風の谷のナウシカ」(安田成美 作曲:細野晴臣)

風の谷のナウシカ」(安田成美 作曲:細野晴臣)

アルバム「風街ろまん」で作曲に開眼した細野は、「はっぴいえんど」解散後もソロや音楽集団「ティン・パン・アレー」等で精力的に活動していきます。そして1978年に結成した「Y.M.O.(イエロー・マジック・オーケストラ)」で世界的な人気を獲得することになります。

細野の音楽的なインテリジェンスは非常に高く、博覧強記で知られた同じく「はっぴいえんど」のメンバーであった大滝詠一ですら「細野さんには敵わない」と舌を巻くほど。その豊富な音楽的な引き出しを活かし、歌謡曲での作曲でも細野は活躍します。歌唱力のある歌手には実力相応の難曲を提供。松田聖子には、転調著しい「天国のキッス」、中森明菜には独特のコード進行で厄介な「禁区」といった具合です。ただし難曲にもかかわらずポップに聞こえてしまうのが細野マジックと言えるのかもしれません。

ただ細野の作曲術の真骨頂は、歌唱力があまり高くない歌い手に提供する曲にあると思います。自身が歌唱で苦労した経験があるせいか、歌い手に優しい曲を作るのです。その好例が上記、後に女優として成功する安田成美の歌手デビュー曲です。歌い慣れない安田が安心して歌えるためか、冒頭のAメロディとサビの歌いだしはペンタトニック(5音階)で出来ています。そしてやや不安定な歌唱をもサウンド全体でつつみ込み魅力的な曲に仕上げてしまうのです。これは前回紹介した「風をあつめて」でも共通するとと同時に、こうした歌い手への配慮は筒美京平の作曲術にも通底すると思います。なおこの曲の編曲は筒美からも全幅の信頼を得ている萩田光雄が担当しています。

今回は今年2024年に発表された再録バージョンを紹介します。発表されて40年、名曲は色あせません。

黒鍵ペンタトニック 「風をあつめて」(はっぴいえんど:細野晴臣)

「風をあつめて」(はっぴいえんど

前々回のエントリーで触れた「はっぴいえんど」に話は戻ります。

1971年、アルバム「はっぴいえんど」(通称ゆでめん)が発表され、大滝詠一のボーカル曲がバンドを牽引する中、ひそかに苦しんでいたのがリーダーの細野晴臣でした。

細野はスタジオミュージシャンとしても日本屈指の名ベーシストですが、作曲した本人がマイクをとるこのバンドで、生粋のボーカリストである大滝と歌唱力で比べられるのはやはり気の毒といえました。細野の低声を活かしつつも、楽器(バンド)との絶妙なサウンド・バランスで曲を構築する細野ボーカル曲のスタイルを徐々に構築していきます。

そして興味深いのは、大滝の作った曲には、二六抜き短音階(マイナーペンタトニック)の曲が多いのに対し、細野の作った曲は四七抜き長音階(メジャーペンタトニック)の曲が多いのです。ただ四七抜き長音階だとどうしても田舎節になりやすいのが玉にきずと言えます。

「はっぴいえんど」のセカンドアルバム「風街ろまん」に収録された、このバンドの代表曲ともいえる上記の曲で細野のボーカル曲のスタイルが確立したといえます(この曲はほぼ四七抜き長音階の曲です)。実はこの曲は、難産の上、誕生しています。当初は似た内容の詞にカントリー調の全く異なるメロディの曲で録音まで済ませました(こちらの曲も四七抜き長音階です)。ですが、その出来に納得いかず、一旦はお蔵入りとなります。詞曲とも再度練り直した結果、シティポップの祖ともいえるこの曲が生まれたのです。四七抜き長音階なのに都節、これまでの歌謡曲にはないまさに「ニュー・ミュージック」と言えました。

今月の一冊 『細野観光1969-2021オフィシャルカタログ』

今月の一冊 『細野観光1969-2021オフィシャルカタログ』

2019年に開催された「細野晴臣デビュー50周年記念展」のオフィシャルカタログの増補版を今回は紹介します。細野晴臣氏は半世紀以上の長い音楽家としてのキャリアを誇ります。しかもその内容も日本語ロックの「はっぴいえんど」、テクノポップの「Y.M.O」で活動する等、大変多岐に渡るので、文書だけだとなかなか把握しにくいところがあります。それが図録であれば、ヴィジュアルで全容が眺められ、まさに絶好のガイドブックといえます。

展覧会へ行くと、つい図録が欲しくなってしまいます。手元に展覧会そのものがあるようで、とてもお得に感じられます。

黒鍵ペンタトニック 「春よ、来い」(松任谷由実)

「春よ、来い」(松任谷由実)

さて「春よ来い」がタイトルになる曲を紹介するのはこれで3回目(正確には今回の曲名には句点が入ります。)。やはり春を待ち乞う気持ちはつい5音のペンタトニックで表したくなってしまうのでしょう。

さてこの曲の作者は「ユーミン」こと松任谷由実です。ユーミンと前回触れた「はっぴいえんど」とは縁が深く、荒井由実としてデビューしてからしばらくバックバンドを務めたのが、解散した「はっぴいえんど」の細野晴臣・鈴木茂が新たに立ち上げた音楽ユニットであるキャラメル・ママ(ティン・パン・アレー)。ちなみにドラムに林立夫、キーボードに松任谷正隆が参加します。ジブリ映画でもおなじみの「ひこうき雲」「やさしさに包まれたなら」の演奏はこのメンバーの手によります。さらに「はっぴいえんど」の元ドラマーで、作詞家に転身した松本隆が実質的にプロデュースした松田聖子プロジェクトにもユーミンは、呉田軽穂のペンネームで作曲陣に加わり、「赤いスイートピー」等のヒット曲を連発。

さてこの曲は1994年に発表された松任谷由実名義のシングル曲です。曲全体は自然短音階(ラシドレミファソラ)で出来ています。自然短音階の名曲は多く、藤山一郎「青い山脈」、ジュディ・オング「魅せられて」等、枚挙にいとまがありません。そしてこの曲はサビで二六抜き短音階となり、上記の譜面は黒鍵だけで弾けるのです。

黒鍵ペンタトニック 「春よ来い」(はっぴいえんど 作曲:大滝詠一)

「春よ来い」(はっぴいえんど

前回に引き続き大滝詠一です。大滝詠一は伝説の「日本語ロック」バンド、「はっぴいえんど」のボーカルでデビューします。他のメンバーはベース、後にY.M.O.でも名を馳せる細野晴臣、ドラム、後に人気作詞家となる松本隆、ギターは編曲家・スタジオミュージシャンとして活躍する鈴木茂の4名です。

松本が作る日本語詞に、残りのメンバーで作曲し各々が歌うのが、このバンドの基本形態でした。そして1970年のデビュー当時、バンドの方向性を決定づけたのが、大滝の作曲術だと考えます。従来の歌謡曲にない和音進行や転調と難しい技術を駆使しますが、かといって聞き馴染みしやすいメロディを紡ぎ、まるで魔法のような作曲術といえます。そこで肝になるのが曲中で使用される音階です。特に初期の大滝作「12月の雨の日」「春よ来い」「かくれんぼ」のメロディには一般的な長調や短調ではなく、「レ」から始まる「ドリア旋法」(レ ミ ファ ソ ラ シ ド レ)が使用されています。なおこのドリア旋法はイギリス民謡の「グリーンスリーブス」や日本の「君が代」でも用いられています。

さらに「春よ来い」「かくれんぼ」は「二六抜きのドリア旋法」(レ ファ ソ ラ ド)で二六抜き短音階と同じ音程構造になります。ですから上記、黒鍵だけでメロディが弾けるのです。

半音程がない5音階での曲では、ロマンティックな声質も持ち合わせる大滝詠一のシンガーとしての魅力が最大限引き出せず、少し勿体ないようにも個人的には思います。

今月の一冊 『ニッポンの音楽(増補決定版)』(佐々木敦)

『ニッポンの音楽(増補決定版)』(佐々木敦)

昨今の出版不況で文庫・新書であってもすぐに絶版になってしまう中、元々新書だったものが文庫として増補版で復活したのがこの本です。

昭和40年代の「はっぴいえんど」を出発点に「J-pop」がどのように生まれ、変化し、そして現在に至っているのか?おおよそ日本のポピュラー音楽の半世紀の歴史を眺めています。

今度は絶版にならず何とか踏みとどまってほしいものです。

黒鍵ペンタトニック 「イエローサブマリン音頭」(PD 大瀧詠一 )

イエローサブマリン音頭」(PD 大瀧詠一

前回も触れたように昭和末ぐらいまでは地域の夏の盆踊りも盛んで新作音頭も作られたものでした。

とりわけその中で取り上げたい新作音頭の作者が大滝詠一です。「風立ちぬ」「夢で逢えたら」等のヒット曲の作者として知られ、自身のアルバム「ア・ロング・バケイション」も大ヒットします。そしていまだにJポップの金字塔として君臨する作品でもあります。

ですがこの直前に大滝が手がけたアルバムが「レッツ・オンド・アゲン」という新作音頭を中心にしたアルバムなのです。残念ながらまるでうれず、稀代の迷盤として一部に熱く支持されるにとどまります。そこで次こそは「売れる音頭」を目標に目をつけたのが、かのビートルズの「イエローサブマリン」。「ア・ロング・バケイション」がヒットした翌1982年にこの曲を音頭に仕立てます。

大滝はプロデューサーとして、この曲中に「軍艦行進曲」「おけさ節」等の日本の古い曲や「抱きしめたい」「デイトリッパー」等、ビートルズの曲の一部を引用することを提案します。それを実行し、実際に編曲をしたのは、大滝が敬愛するクレイジーキャッツでおなじみの萩原哲晶(ちなみにこの作品が遺作に)。日本語訳詞は大滝の盟友である松本隆が担当します。

この曲は中山晋平がいうところ、日本と西洋の「あひ」を狙った和洋折衷の大傑作カバーといえるでしょう。なおこの曲は四七抜き長音階が基調ですのでほぼ黒鍵だけで弾けます。

今月の一冊 文藝別冊『大瀧詠一』(増補新版)

文藝別冊『大瀧詠一』(増補新版)

 

歌手・大滝詠一は作曲家としての実績はさることながら、音楽研究家としての功績も見逃せません。特にこのムック中の「分母分子論」は明治以来、日本でどのように洋楽を受容し、そして邦楽としてどう消化・定着していったかを知る面白い音楽文化論です。

こちらの「黒鍵ペンタトニック」もこの論に刺激を受けたところ思いついたものです。なお1995年と1999年にNHKラジオで放送された「大瀧詠一の日本ポップス伝」はこの論のラジオ実践版です。あわせてお薦めいたします。

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