黒鍵ペンタトニック 「風の谷のナウシカ」(安田成美 作曲:細野晴臣)
「風の谷のナウシカ」(安田成美 作曲:細野晴臣)
アルバム「風街ろまん」で作曲に開眼した細野は、「はっぴいえんど」解散後もソロや音楽集団「ティン・パン・アレー」等で精力的に活動していきます。そして1978年に結成した「Y.M.O.(イエロー・マジック・オーケストラ)」で世界的な人気を獲得することになります。
細野の音楽的なインテリジェンスは非常に高く、博覧強記で知られた同じく「はっぴいえんど」のメンバーであった大滝詠一ですら「細野さんには敵わない」と舌を巻くほど。その豊富な音楽的な引き出しを活かし、歌謡曲での作曲でも細野は活躍します。歌唱力のある歌手には実力相応の難曲を提供。松田聖子には、転調著しい「天国のキッス」、中森明菜には独特のコード進行で厄介な「禁区」といった具合です。ただし難曲にもかかわらずポップに聞こえてしまうのが細野マジックと言えるのかもしれません。
ただ細野の作曲術の真骨頂は、歌唱力があまり高くない歌い手に提供する曲にあると思います。自身が歌唱で苦労した経験があるせいか、歌い手に優しい曲を作るのです。その好例が上記、後に女優として成功する安田成美の歌手デビュー曲です。歌い慣れない安田が安心して歌えるためか、冒頭のAメロディとサビの歌いだしはペンタトニック(5音階)で出来ています。そしてやや不安定な歌唱をもサウンド全体でつつみ込み魅力的な曲に仕上げてしまうのです。これは前回紹介した「風をあつめて」でも共通するとと同時に、こうした歌い手への配慮は筒美京平の作曲術にも通底すると思います。なおこの曲の編曲は筒美からも全幅の信頼を得ている萩田光雄が担当しています。
今回は今年2024年に発表された再録バージョンを紹介します。発表されて40年、名曲は色あせません。