たった50鍵の小宇宙、バッハの時代の鍵盤曲
最近、私はバッハの曲の練習に時間をかけています。やはりクラシックの作曲家では、バッハが一番好きなのだと実感させられます。
さてバッハの時代の鍵盤楽器は種々様々でした。教会のオルガンをはじめ、宮廷で愛されたチェンバロ、簡素な練習用のクラヴィコードなど。ピアノはまだまだ生まれたての新参ものでした。
現在ピアノでよく弾かれるバッハの曲の多くは、作曲家自身による詳細な楽器指定がありません。有名な「平均律クラヴィア曲集」における「クラヴィア」とは、鍵盤楽器全体の総称を指します。つまりどの鍵盤楽器で演奏して問題がないようにバッハは作曲したのです。このようなバッハの懐の深さは時代を超越すると思います。それは電子楽器、シンセサイザーによるレコードで初めてミリオンセラーを達成したのが、W.カーロスによる「スイッチト・オン・バッハ」(1968年)というバッハ曲による作品であることからも明らかなように思います。
そして私が何より驚嘆するのはバッハの鍵盤曲の多くがたった50鍵程度で作られていることです。これは当時の楽器の技術的事情が大きいです(現存する最古のピアノ、クリストフォリの3台のうち2台が49鍵)。現在のピアノの標準鍵盤数は88鍵なので、その6割しか用いないいにもかかわらず、バッハは音楽の小宇宙を築き上げていて、そのイマジネーションにはほれぼれしてしまいます。
なお私の防災グッズには49鍵の簡易なキーボードも準備しています。何かあったらそれを抱えて避難し、バッハの曲だけは何とか弾ける環境を作りたいと思います。
メトロポリタン美術館に残る最古のピアノ、クリストフォリ。バッハと同い年のD.スカルラッティの曲を演奏した動画