遠回りもそう悪くはない?得難い経験
大学で私が専攻したのは「音楽学」です。学校の方針で単なる座学にならぬよう、副科ですが楽器演奏の実技も必修でした。副科実技の中で特に優遇されていた楽器がピアノでした。4年間の継続履修を条件に、他の楽器の倍の単位を当時は取得できました。学生の多くはこの恵まれたピアノのルートを選択し進むのですが、あろうことに私は二年次で道から外れ単位を失います。
その後、苦難の道が待ち受けます。私はピアノ以外の楽器経験はありませんでした。いくら副科実技とはいえ、ヴァイオリンやフルートといったメジャーな楽器では、とても授業についていけません。途方に暮れていた私を救ってくれたのが、非西洋圏のいわゆる「民族楽器」でした。インドのシタール、インドネシアのガムラン、朝鮮半島の伽耶琴、そして日本の雅楽。さすがに未経験者ばかりが多く、授業も和気あいあい。「小泉文夫記念資料室」に楽しく授業に通ったのを思い出します。
なお小泉文夫先生は、日本に民族音楽を広めた第一人者で、山下洋輔氏、坂本龍一氏など数多くの音楽家に影響を与えました。私の在学時には既にお亡くなりなっていましたが、小泉先生が残してくださった記念資料室のおかげで、私は副科実技の単位を何とか取得し、大学卒業までたどり着くことができました。
今思えば随分と遠回りをしましたが、様々な地域の楽器に幅広く触れた経験はとても得難いものでした。そして今、あらためてピアノに向き合う私の血肉になっていると思います。