- 春日部で40年。あなたの街の音楽教室。ミュージックファームぷりま

ピアノ・声楽・ギター・バイオリン・フルート・クラリネット

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サイド・バイ・サイドでのコミュニケーション~共視

ピアノをはじめ鍵盤楽器の多くで、奏者は観客に正対しません。つまり観客と目を合わさずに演奏できるのです。フェイス・トゥ・フェイスを得意としない私にとっては、人前で正対してあいさつしたろ、歌ったりするよりピアノを弾く方が緊張はまだましなようです。

さて『共視論 母子像の心理学』北山修編)という本で知ったのですが、精神療法の臨床やカウンセリングの際は、フェイス・トゥ・フェイスより隣り合って座ってサイド・バイ・サイドで治療者と患者が語り合い、物事を共有するケースが多いそうなのです。確かにその方が思わず気を許してしまう気もします。

そしてこの本では、浮世絵の母子像に多く見られる「共視」という現象に注目します。

『子は母の視線を追い、母の見ている対象を共に見ながら母の発語を聞く。逆に母も子の視線を追い、この見ているモノを共に眺める。~略~そして、くりかえされる共同作業は、本書やその研究で度々指摘されるように、言語習得と文化継承、そして思考の伝達という機能の意味でも重要である』(前褐書P.16)

この「母子像」のサイド・バイ・サイドでの「共視」は、どこかピアノレッスンに相通じると思います。講師・生徒共に、同じ楽譜を眺め、その曲が弾けるようになるために、言語はもちろん、弾いて音楽でもコミュニケーションを図るのです。私はレッスンでのこの「共視」が大変心地よく、つい本音を漏らしてしまうことが多いようです。

黒鍵ペンタトニック「ライディーン」(Y.M.O.)

「ライディーン」(Y.M.O./高橋幸宏作曲)

再びY.M.O.に話題を戻します。1979年8月のロサンゼルス公演の成功で逆輸入的に国内でも人気が出た直後の9月、2枚目のアルバム「ソリッド・ステイト・サヴァイヴァ―」を発売。国内累計102万枚のメガヒットとなり、その人気は確固たるものになります。

ヒットの要因として、この作品が昭和初期の人気作曲家・中山晋平作品に見られる「流行歌」「民謡」「童謡」の三要素を備えていたことを挙げたいと思います。特に冒頭の三曲にそれが顕著だと思います。

1曲目「テクノポリス」は「流行歌」。作曲した坂本龍一は、ピンクレディーや筒美京平の曲等、当時流行していた人気歌謡曲を分析・研究したうえで、再構築したのがこの曲です。

2曲目「アブソリュート・エゴ・ダンス」は「民謡」。作曲した細野晴臣が得意とするエキゾチックうサウンドで、沖縄民謡をモチーフにしたのがこの曲です。

そして3曲目「ライディーン」は「童謡」。この曲は当時の小学生を中心とした子供に異様なほどに刺さるのです。例えば、1982年放送のドラマ「北の国から」の第13話。北海道・富良野での田舎生活に嫌気が刺した都会育ちの主人公、小学生の純(吉岡秀隆)。久しぶりの東京で旧友の家にてヘッドホンで聴くのがこの曲なのです。当時の流行のほどがうかがえます。

なおこの曲のBメロディは、童謡でおなじみのペンタトニック(二六抜き短音階)になります。

作曲したのはドラムの高橋幸宏。細野の影響下でシンガーソングライターとしての才能を開花させます。そのせいかペンタトニックを用いたメロディ作りを得意とします。

ぷりま音楽歳時記 3-1.ハ長調

ハ長調

この「ぷりま音楽歳時記」も三巡目に入ります。まずは調号なしのハ長調。作曲家リムスキー=コルサコフは「白」とこの調を色聴しています。ピアノは全て白鍵で弾ける調なので思わず納得してしまいます。

<ハ長調の曲>

ピアノソナタ第16番 K.545(モーツァルト)

ソナチネアルバムにも掲載されているお馴染みの曲です。第1楽章、第3楽章がハ長調です。今回紹介するのは、1989年、ロンドンでのライブ映像で、リヒテルの演奏です。照明を嫌ったリヒテル、楽譜や手元を電球一つだけで照らし演奏しています。

今月の一冊『ヤクザときどきピアノ』

ヤクザときどきピアノ

今回は内容が良いのに、タイトル・装丁のせいで損をしているであろうこの本を紹介します。

「サカナとヤクザ」等、暴力団関係の潜入ルポで知られる著者がピアノを習いに音楽教室へ通う体験記です。ABBAの「ダンシング・クイーン」を弾くのを目標にまったくの初心者である著者が発表会で演奏を披露するまでの奮闘記です。

潜入ルポライターならではの実にリアルな筆致に思わずこちらも手に汗を握ってしまいました。

映画を「観」ないで「聴」く楽しみ

最近、2010年公開の映画「シャッター・アイランド」(M.スコセッシ監督、L.ディカプリオ主演)を改めてDVDで観直しました。ミステリー映画で怖いはずなのですが、は話そっちのけで劇伴音楽にやはり夢中でした。劇伴音楽には、ジョン・ケージペンデレツキリゲティ等々、一般的な認知度が高いとは言えない現代音楽の作曲家による作品が用いられているのです。世の中にそう多くはない現代音楽愛好家の私にとっては、映画のBGMとはいえ、2時間強も現代音楽を堪能できる本当に有り難い機会で、異様に気分がアガったのです(映画はミステリー映画なのにもかかわらず)。そして風変りにも映画を「観」ないで「聴」いていたのです。

 

聞きなじみのしない抽象的現代音楽が劇伴の多くを占める中、クライマックスのシーンで、とてもメロディアスな室内楽の調べが流れました。いったい誰の作品か?エンドクレジットを確認すると、後期ロマン派の作曲家、マーラーのピアノ四重奏曲で、若き日の習作で珍しい小品でした。大規模なオーケストラ作品で知られるマーラーの意外な一面を垣間見た気がしました。

そして映画全体で抽象的な音楽が覆う中、一輪の花のような美しい旋律、このセンス溢れる選曲をした音楽監督がロビー・ロバートソンです。ボブ・ディランのバックバンドを務め一躍有名になった「ザ・バンド」のメンバーです。「ザ・バンド」の音楽からは、一見ほど遠いはずの現代音楽での選曲、ロビー・ロバートソンの音楽に対する造詣の深さに興味を持った私は、ザ・バンドからボブ・ディランとこの映画の公開当時に立て続けに聴き漁ったのを思い出しました。

黒鍵ペンタトニック「打上花火」(DAOKO&米津玄師)

「打上花火」(DAOKO&米津玄師)

前回のエントリーで取り上げたY.M.O.が画期的だったのは、コンピューター制御のシンセサイザーやリズムマシンをバンド演奏の中心に据えたことでした。こうした音楽を「テクノポップ」と呼称するようになり、1970年代末にブームとなり、Y.M.O.と同世代(やや下)のテクノ御三家(P-MODELヒカシュープラスチックス)なども一躍人気となります。1980年代になると、歌謡曲の中にもテクノポップの影響は深く浸透していきます。小室哲哉率いるTM NETWORKが人気を博すなど、シンセサイザーの人気は市民権を得ることになります。1990年代になると電気グルーヴ、ケン・イシイテイ・トウワ等も登場し、音響機器を操作して演奏に参加する「DJ」の存在も当たり前のものとなります。

2000年代には、人工音声合成技術「ボーカロイド」が発表され、歌唱そのもののコンピューター制御が可能になりました。インターネット上の動画投稿サイトではボーカロイド作品が数多く投稿されるようになり、その投稿主を「ボカロP」と呼称するようになります。そのなかでもとりわけ人気だったのが、ボカロP「ハチ」こと米津玄師です。2015年にメジャー・デビューし、シンガーソングライターとして台頭します。

上記「打上花火」は2017年に発表、DAOKOとの共同名義のシングル曲になります。大サビの二人の掛け合いと続く間奏がほぼペンタトニック(5音階)で出来ています。前回取り上げた「ファイアークラッカー」も訳せば「花火」、どこかこの現象と5音階とは相性が良いのでしょうか?

なお米津氏は自身の音楽に影響を与えた人物として前記したP-MODELの平沢進の名を挙げています。どうやらテクノポップの系譜は連綿と受け継がれ、現在に至っているようです。

ぷりま音楽歳時記 2-24.二短調

ニ短調

ニ短調の調号は♭1つ。マッテゾン曰く、「むしろ献身的、穏やか、喜ばしく満足感を与える」とのこと。弦楽器の開放弦を有効に使えてふくよかに響く調といえるでしょう。

<ニ短調の曲>

交響曲第9番(ベートーヴェン)

第二楽章を除いて、各楽章の始まりはニ短調です。終楽章の最後は同主調の祝賀的なニ長調の「歓喜の歌」で締めくくります。今回紹介するのは、クーベリック四季、バイエルン放送交響楽団による「あえてのモノクロ・モノラル」で収録の1970年の映像です。

今月の一冊『見えないものに、耳をすます』

見えないものに、耳をすます―音楽と医療の対話-

またしても対談本の紹介です。2017年にEテレ「SWITCHインタビュー達人達」の放送内容に、さらに追加対談、書下ろしを加えて再構成されたのがこの本です。

まず何といっても良いのがそのタイトルです。見た目やビジュアルを重視しがちな昨今、やはり「見えないものに、耳をすます」ことは大切だと思います。

対談主は朝の連続テレビ小説「あまちゃん」の音楽でおなじみの音楽家・大友良英氏と現在、軽井沢病院の院長を務める医師・稲葉敏郎氏です。

12の鍵盤全て触りましょう~ナチュラルポジション全調練習

西洋の七音階、長調と短調は、12の鍵盤どの音からでも構成できます。その長短調全24調を身覚えてしまえればこれ程心強いことはありません。教則本「ハノン」の音階&カデンツ(和音)練習で身につけてしまうのが理想ですが、かくいう私も子供時代にとても難儀した練習の一つでした。そのため大人になって趣味でピアノを習い始めた生徒さんに、音階の全調練習をお勧めするのはとても躊躇していました。ただし全調でピアノを弾ければ、12の鍵盤全てに触れることにもなり、指先の感触で鍵盤が覚えやすくもなります。

気軽に無理なく全調練習できるのものはないものか?そこで私が目につけたのが、ブラインドタッチの教則本第1巻です。第1巻の前半は一度所定の鍵盤位置に指をのせれば、そこから動かずに弾けるナチュラルポジションの曲ばかりです。それを12の鍵盤どこからでも弾けるように移調さえすれば、すべての鍵盤に触れることのできる全調練習になるのです。曲は「家路」や「歓びの歌」等、聞きなじみのある12曲を選曲し、そして出来たのが「ナチュラルポジション全調練習」です。(以下の楽譜その一部です。)

調号の♯や♭が多く譜読みが面倒な調もありますが、それはどうぞご安心を。曲毎にどの位置に指を置くかをイラストで明示してあります。ブラインドタッチ1巻を修了した方なら心配ご無用です。移調しても運指自体は変わらないのでこれまでの復習も兼ねられるのです。

また楽譜の右上の隅には「ぷりま音楽歳時記」へリンクするQRコードを掲載しています。そのリンク先には各調の特色や代表曲を学ぶことが出来ます。西洋音楽の「調のしくみ」にまで皆さんの興味が広がってもらえれば幸いです。

「12鍵×12曲=144曲」と教本にまとめると厚くなってしまいますので、レッスン毎にガラポン抽選器を回してもらい、1ページずつ配布していきます。ゲーム感覚で楽しく無理なく全調練習を進めていきたいと思います。

黒鍵ペンタトニック「ファイアークラッカー」(Y.M.O.)

「ファイアークラッカー」(Y.M.O.)

さて今回からいよいよY.M.O.(イエロー・マジック・オーケストラ)を取り上げたいと思います。次世代に与えた影響もあわせてみていきたいと思います。

1978年2月、細野晴臣は自身のソロアルバムの録音作業を終えると、そこに参加していたミュージシャン、坂本龍一と高橋幸宏を自宅に招きます。そこで新バンドY.M.O.の構想についてメモ書きを見せ両名に参加を要請します。そこには『マアティン・デニーのオリジナル作品を、シンセサイザーを使用したエレクトトリック・チャンキー・ディスコとしてアレンジした”ファイア・クラッカー”に決定!~略~本邦から初の世界的大ヒットを自信をもってネラッちゃうのであります。目標、400万枚』と記されていました。

なおマーティン・デニーとは1950年代に流行したエキゾチカの代表的なアメリカの作曲家です。非西洋圏に対する欧米人の妄想的な異国情緒を表した音楽がエキゾチカともいえ、Y.M.O.以前の細野のソロ作品「トロピカル三部作」にも多大な影響を与えていました。上記の「ファイアークラッカー」も主要部もペンタトニック(5音階)でその異国情緒間に一役買っています。

この曲のカバーをを含むアルバム「イエロー・マジック・オーケストラ」で1978年11月に国内デビューを果たしますがそこでは余り話題にならず。翌年5月にアメリカ盤が発売され、8月のロサンゼルスでの初の海外公演で成功をおさめると、国内でも大きく報道されるようになりその人気に火が付きます。逆輸入的な人気を背景に、Y.M.O.はテクノポップというポップミュージックの新機軸を打ち立てることになります。

ぷりま音楽歳時記 2-23.ト短調

ト短調

ト短調の調号は♭2つ。マッテゾン曰く、「優しく活気づける。満足を与え、胸を焦がす」とのこと。短調の中ではポジティブな印象の調といえるでしょう。

<ト短調の曲>

交響曲第40番(モーツァルト)

前回のエントリーでも触れたこの交響曲第40番。モーツァルトの交響曲中、短調で作られたのはこの曲を含めて2曲のみで、いずれもニ短調です(もう1曲は第25番です)。今回紹介するのは2006年11月、東京・サントリーホールでのアーノンクール指揮、ウィーンフィルハーモニーによる演奏です。

今月の一冊『モオツァルト・無常という事』

モオツァルト・無常という事

言わずと知れた名著。作中モーツァルトのト短調交響曲第40番やクインテット(弦楽五重奏曲)第4番にも触れています。

特にクインテット冒頭について「モオツァルトのかなしさは疾走する。涙は追いつけない。」との小林の名文句はあまりにも有名です。

とはいえ、私が若かった頃に初めて読んだ際、文章が難しくて内容がチンプンカンプンでした。今になって読み返してみたところ、ようやく文章の凄みが分かり始めたところです。歳を重ねて再読した折には、内容の理解がさらに深まるといいのですが…

猫ふんじゃった~楽譜の見た目にご用心~

小学校の音楽の授業の前後の休み時間など、教室のオルガンや鍵盤ハーモニカで、友だちたちがにぎやかに「猫ふんじゃった」を速弾きして遊んでいたのを思い出します。

私はピアノを習っていたにもかかわらず、その輪に加わることが出来ませんでした。というのもどう弾くのかを知らなかったからです。きっといつかレッスンで習うだろうと思っていたのですが、結局習うことはありませんでした。

その理由はきっとその譜面のせいにあるのでしょう。以下の譜面が「猫ふんじゃった」の冒頭です。

調号の数が♭(フラット)6つの変ト長調です。その譜面の強面ぶりにはつい近寄りがたいオーラがありつい敬遠したくなります。ですが、手遊びのつもりで指先の感触で鍵盤位置を覚えてしまえば、譜面要らずで案外弾けてしまうのです。

このように楽譜の見た目が難しそうでも、楽に覚えてしまう場合もあれば、楽譜が簡単そうに見えても覚えにくい場合もあります。例えば調号のない白鍵ばかりのハ長調の曲は、最初の譜読みは比較的楽に進みます。ですが、凹凸のない平坦な白鍵ばかりなので一度弾けても指先の感触で覚えるのに苦労することがあります。一方、調号の多い変ト長調では、「ド♭」が白鍵の「シ」と同じ位置になる等、譜読みがやや面倒です。でも黒鍵の凹凸に触れられるおかげで、一度弾けるようになってしまえば指先の感触で覚えてしまえるのです。

楽譜の見た目でつい弾き易さを判断したくなりますがくれぐれもご用心ください。

黒鍵ペンタトニック「恋」(星野源)

「恋」(星野源)

これまで3回に渡ってみてきた細野晴臣の音楽は、次世代にも大きな影響を与えました。特に直接的にその音楽的な影響を受けたのが、以前もこちらで取り上げた星野源氏です。

私が星野氏を認知したのは2008年。当時放送していた宮藤官九郎脚本のドラマ「未来講師めぐる」に星野氏が俳優として出演していました。劇中で歌う星野氏を見て、劇団「大人計画」の若手俳優?!ぐらいの認識でした。

おっとどっこい、星野氏は並行して音楽業に勤しんでいて、すでに2003年には、インストルメンタルバンド「SAKEROCK」のメンバーとしてインディーズながらCDデビュー。バンド解散後の2010年には細野氏が主宰するレーベル、デイジーワールドからソロ歌手としてメジャーデビューを果たします。

星野氏の人気がブレイクするのは2015年。4枚目のアルバム「イエローダンサー」で自身初のオリコンチャート1位を記録します。もちろんタイトルにはある「イエロー」は前回触れた細野氏が考案した「イエロー・マジック」に由来します。そして翌2016年に発表したのが、上記の曲。自身が主演のドラマ「逃げるが恥だが役に立つ」の主題歌です。エンディングでこの曲に合わせて踊る「恋ダンス」も話題になりました。

なおこの曲、前奏・サビ・後奏の主要部は、ほぼ5音階(ペンタトニック)で作られています。「Y.M.C.A(ヤングマン)」をはじめダンスチューンにはペンタトニックの曲が多く、ディスコ系の曲との相性が良いようです。

ぷりま音楽歳時記 2-22.ハ短調

ハ短調

ハ短調の調号は♭が3つ。マッテゾン曰く、「極端に愛らしいが、悲しい」とのこと。確かに短調の暗さはあるものの、どことなくチャーミングな佇まいを感じさせる調です。

<ハ短調の曲>

ピアノ協奏曲第3番(ベートーヴェン)

この曲の第1楽章はハ短調。オーケストラの荘厳な重々しさに対して、ピアノ独奏はどこか軽妙でとても愛くるしい気もします。今回紹介するのは、1959年録音、グレン・グールド(ピアノ)、バーンスタイン(指揮)、ニューヨークフィルハーモニーの演奏です。

今月の一冊『小澤征爾さんと、音楽について話をする』

小澤征爾さんと、音楽について話をする

対談本は読み易くとても好きですが、その中でも特におすすめなのがこの1冊です。

ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番について、ピアニスト/指揮者の組み合わせの違いで聴き比べをしていく「第1回」は特に面白いです。グールド/バーンスタインの他、グールド/カラヤン、ゼルキン/バーンスタインの組み合わせで演奏を比較しています。

同じ曲でも演奏者が違えばその味わいも変わる。これぞクラシック音楽の妙です。

鍵盤の奥行き~白鍵と黒鍵の凹凸

ピアノの鍵盤の「奥行き」については普段なかなか意識しないでしょう。鍵盤そのものの奥行きは約15cmです。白鍵だけの手前の部分は約5㎝に過ぎず、黒鍵と白鍵の混ざった奥の部分が約10㎝なので、奥は手前の倍の長さになります。

例えばスキー場では、初心者は傾斜が緩く平らなコースがやはり滑りやすいです。ですが一定のレベルに達すれば、傾斜もきつくコブがある凹凸なコースで滑った方が楽しいわけです。ピアノでも同様で、習い始めたばかりは、手前1/3の平らな白鍵で弾いた方が楽。だから初心者は白鍵だけのハ長調の曲を習うことが多いのです。ですがピアノの醍醐味はやはり白鍵と黒鍵が混在する凹凸な奥の2/3にあります。

そこを弾きこなすのはそう簡単ではありません。指先の凹凸ばかりに気をとられると手全体のバランスも崩れてしまいます。特に親指で黒鍵を弾く時が要注意です。親指を鍵盤と縦に平行に打鍵すると残りの指が鍵盤から離れ、手全体のバランスも崩れてしまいます。肘も下がり、脇も閉じて体全体も硬くなってしまいます。

そこで下図のように親指を横向きに打鍵すれば手全体のバランスが崩れにくくなります。親指は5指のなかで一番力が強く、特に大人の場合は鍵盤に触るだけでも十分な音が出ます。くれぐれもムキにならないよう気をつけましょう。そして残りの指は奥の方(白鍵と黒鍵の混在する凹凸の部分)で打鍵すれば、親指は鍵盤上に乗せやすくなります。

黒鍵ペンタトニック「イエローマジックカーニバル」(作曲:細野晴臣)

「イエロー・マジック・カーニバル」(ティン・パン・アレー 作曲:細野晴臣)

1978年に、Y.M.O.(イエロー・マジック・オーケストラ)を結成するまでの期間で、細野晴臣の作品で触れておきたいのが、『トロピカル三部作』(「トロピカルダンディー」「泰安洋行」「はらいそ」)です。特に3枚目の「はらいそ」は「ハリー細野とイエロー・マジック・バンド」名義で、直後のY.M.O.の萌芽ともいえる作品でした(この作品にはY.M.O.のメンバーとなる坂本龍一、高橋幸宏の両名も参加)。一連の3作品は非西洋的でエキゾチック(異国情緒的)、どこか「民謡」的な要素も含んでいたように思います。

さて上記の曲は細野から「イエロー・マジック」なるアイディアが飛び出した最初の曲です。トロピカル三部作と同時期の1975年「ティン・パン・アレー」名義で発売されたアルバム「キャラメル・ママ」に収録されました。細野は魔術を引き合いに『“黒と白”という西洋の分け方に日本人は入れない、と思ったわけ。特に音楽やってるぼくの場合、西でも東でもない状態に片足突っ込んでいる真っ只中なんで。じゃあ、自分はどこなのか、と悩んだな』と述懐。そして子供の頃に読んだ西遊記を思い出し『西遊記には黄魔大王というのも出てきたなあ、なんてことを思い返して、黄色いイメージが浮かんだ。黄魔術。』(CD「HOSONO BOX」ライナーノーツP.25)かくのごとくイエロー・マジックが誕生するのです。

なお上記の曲、最初のAメロディは5音階(ペンタトニック)で作られています。5音階と黄魔術、その関係は浅からずといえそうです。

ぷりま音楽歳時記 2-21.ヘ短調

へ短調

ヘ短調の調号は♭4つ。マッテゾン曰く、「温和で、感傷的。心配と絶望」とのこと。個人的にはこのヘ短調が全調の中で最も色彩が暗く、重い印象を受けます。「心配と絶望」というマッテゾンの意見に深く同意します。

<ヘ短調の曲>

ピアノソナタ第23番「熱情」ベートーヴェン

この曲の第1・3楽章がヘ短調です。第1楽章の途中でヘ長調に転調して、再びヘ短調に劇的に戻ってきます。今回紹介するのは1970年ドイツ・ボンのベートーヴェン・フェスティバルでのクラウディオ・アラウの演奏です。

いきいきピアノフォーラムVOL.6参加者募集

これまで教室生のみ対象としていた講座を外部聴講も募集することにしました。

今回は和音伴奏の基礎である「コード」をテーマにします。もしご興味をお持ちいただけましたら是非ご参加ください。

こちらから、「お問合せ種別」(その他)「ご希望のコース」(ピアノ)にチェックを入れていただき、「お名前」「電話番号」「メールアドレス」をご記入の上、「お問合せ内容」に(講座参加希望)とご記入の上お申し込みください。

今月の一冊(本)映画『パーソナルソング』(2014年)

『パーソナルソング』

今回紹介するのは本ではなく映画です。

「音楽のチカラが、人生の喜びを取り戻す。」とのキャッチコピーのドキュメンタリー映画です。介護施設で歩行器なしでは生活もままならない老人が、懐かしい音楽を聴くとリズムに合わせて踊りだしてしまうシーンが特に印象的でした。前回のエントリーで記した「私のお気に入り」の音楽がどのように真価を発揮するかを思い知った作品です。

限りある人生、出来るだけ健康でいたいもの。そこで少しでも音楽を活用させたいものだと考える今日この頃です。

「私のお気に入り」を探すのを大切にしましょう

前回のエントリーの続きです。音楽を聴くことが「個人的」な経験になったと記しました。このことは演奏することにも当てはまるのかもしれません。合奏せずとも自己完結できるピアノのような楽器の場合は特にそうかもしれません。

そうなると他者と演奏技術の優劣を比較することにはあまり意味がないように思えてしまいます。それより「私のお気に入り」のメロディ・響き・リズム等を探していく、そして自分自身が心地よく感じる演奏を目指すことが大切なのではないかと思うようになりました。

自分自身を知るためにも他者との比較や評価があった方が自分の立ち位置を相対化できるという筋の通った意見もあると思います。ですが私はそれには反対です。というのも「私のお気に入り」とは必ずしも筋の通った理知的なものではないと思うからです。「私のお気に入り」どちらかといえば、理屈では表せない感性に下支えされていると思うからです。

理屈抜きの「私のお気に入り」を他者から理知的に点数化されたりするのは、どんなに頭で理解が出来たとしても、心底、体で納得できるものではないでしょう。その上、順位付けなどされてしまえば、面白いのはせいぜい上位の数名で、選外のその他多くは、行き場のない気持ちを背負ってしまうと思います。そこで背負いこんだトラウマは案外ダメージが深く、その回復はそう容易ではないように思います。

やはり「私のお気に入り」を探すのが大切です。そしてそれを応援すのがこの教室の仕事だと思っています。

映画「The Sound of Music」から「My Favorite Things」

黒鍵ペンタトニック 「風の谷のナウシカ」(安田成美 作曲:細野晴臣)

風の谷のナウシカ」(安田成美 作曲:細野晴臣)

アルバム「風街ろまん」で作曲に開眼した細野は、「はっぴいえんど」解散後もソロや音楽集団「ティン・パン・アレー」等で精力的に活動していきます。そして1978年に結成した「Y.M.O.(イエロー・マジック・オーケストラ)」で世界的な人気を獲得することになります。

細野の音楽的なインテリジェンスは非常に高く、博覧強記で知られた同じく「はっぴいえんど」のメンバーであった大滝詠一ですら「細野さんには敵わない」と舌を巻くほど。その豊富な音楽的な引き出しを活かし、歌謡曲での作曲でも細野は活躍します。歌唱力のある歌手には実力相応の難曲を提供。松田聖子には、転調著しい「天国のキッス」、中森明菜には独特のコード進行で厄介な「禁区」といった具合です。ただし難曲にもかかわらずポップに聞こえてしまうのが細野マジックと言えるのかもしれません。

ただ細野の作曲術の真骨頂は、歌唱力があまり高くない歌い手に提供する曲にあると思います。自身が歌唱で苦労した経験があるせいか、歌い手に優しい曲を作るのです。その好例が上記、後に女優として成功する安田成美の歌手デビュー曲です。歌い慣れない安田が安心して歌えるためか、冒頭のAメロディとサビの歌いだしはペンタトニック(5音階)で出来ています。そしてやや不安定な歌唱をもサウンド全体でつつみ込み魅力的な曲に仕上げてしまうのです。これは前回紹介した「風をあつめて」でも共通するとと同時に、こうした歌い手への配慮は筒美京平の作曲術にも通底すると思います。なおこの曲の編曲は筒美からも全幅の信頼を得ている萩田光雄が担当しています。

今回は今年2024年に発表された再録バージョンを紹介します。発表されて40年、名曲は色あせません。

ぷりま音楽歳時記 2-20.変ロ短調

変ロ短調

変ロ短調は調号の♭が5つ。黒鍵を全て使えるので、ピアノ曲に使われることが多い調です。ただし平行調の変ニ長調の人気に比べると雲泥の差でその使用頻度はぐっと下がります。やはり響きが重くなるのを嫌って、作曲家も使用をためらうのかもしれません。

<変ロ短調の曲>

弦楽のためのアダージョ」(バーバー)

この曲は、ケネディ大統領の葬儀でも使用されたことでも有名。悲惨なベトナム戦争を描いた映画「プラトーン」でも使用されています。今回紹介するのは1968年アメリカ交響楽団で指揮するストコフスキーのリハーサル映像です。

 

今月の一冊(本)映画『風の谷のナウシカ』(1984年)

『風の谷のナウシカ』

風の谷のナウシカ [DVD]

今回紹介するのは本ではなく映画です。紹介するのもはばかれる程の大名作です。

当初この映画の音楽(主題歌)を担当する予定だったのが、先月紹介した細野晴臣。諸事情があり、当時はまだ無名で駆け出しの久石譲に交代しました。久石氏はこの作品が出世作となり、ジブリはじめ、北野武監督の映画等でも音楽を担当し、日本を代表する名劇伴作曲家となります。(もし交代せず細野氏がこの映画の音楽担当を務めていたら、ジブリ映画はどうなっていたのだろうとたまに空想したりもします。)

「公共的」音楽体験のありがたさ

ソニーのウォークマンが発売されたのが、40年以上前の1979年。小型の機器でしたが、音楽の従来からのあり方を大きく変えた革命的で画期的な製品でした。(こちらの記事もぜひお読みください。)

従来、音楽を聴くには「場」が必要で、それはどこか「公共的」な体験でした。その場でいる人で聴く(聞こえる)ことが前提でした。ですがウォークマンでは、イヤホン等で一人で音楽を聴ける上、持ち運びも可能、「場」を必要とせずどこでも聴けるのです。「公共的」な体験だった音楽を聴くことが、「個人的」な体験へと変化したのだと思います。

メディアがカセットからCDやMDなどを経て、スマートフォンに変化した現在、いっそうその個別化は顕著だと思います。例えば、今やイヤホン等は、キラ星の如く多種で、数十万する高価なものから、百均で買える廉価なものまで、お洒落でカラフルなものから、業務用の武骨なものまで、実に百花繚乱。個々のライフスタイルに応じて音楽を聴けるのです。当然、思い入れのある曲もそれぞれ異なってきますので、昨今、社会全体で流行する曲が少なくなってきているのもうなずけます。

かつて当然だった「公共的」な音楽体験は、今や希少でむしろ特別になってしまったのです。コンサート・ライブ・発表会・複数人でのカラオケ等がそうしたものに該当するでしょう。特にコロナが流行中は、これらはかなりの制限を受けてしまったため、「公共的」な音楽体験の貴重さをあらためて身に染みたのでした。当教室も発表会等のイベントでみんなで楽しむ「公共的」な音楽体験の場をつくっていきたいと思います

 

黒鍵ペンタトニック 「風をあつめて」(はっぴいえんど:細野晴臣)

「風をあつめて」(はっぴいえんど

前々回のエントリーで触れた「はっぴいえんど」に話は戻ります。

1971年、アルバム「はっぴいえんど」(通称ゆでめん)が発表され、大滝詠一のボーカル曲がバンドを牽引する中、ひそかに苦しんでいたのがリーダーの細野晴臣でした。

細野はスタジオミュージシャンとしても日本屈指の名ベーシストですが、作曲した本人がマイクをとるこのバンドで、生粋のボーカリストである大滝と歌唱力で比べられるのはやはり気の毒といえました。細野の低声を活かしつつも、楽器(バンド)との絶妙なサウンド・バランスで曲を構築する細野ボーカル曲のスタイルを徐々に構築していきます。

そして興味深いのは、大滝の作った曲には、二六抜き短音階(マイナーペンタトニック)の曲が多いのに対し、細野の作った曲は四七抜き長音階(メジャーペンタトニック)の曲が多いのです。ただ四七抜き長音階だとどうしても田舎節になりやすいのが玉にきずと言えます。

「はっぴいえんど」のセカンドアルバム「風街ろまん」に収録された、このバンドの代表曲ともいえる上記の曲で細野のボーカル曲のスタイルが確立したといえます(この曲はほぼ四七抜き長音階の曲です)。実はこの曲は、難産の上、誕生しています。当初は似た内容の詞にカントリー調の全く異なるメロディの曲で録音まで済ませました(こちらの曲も四七抜き長音階です)。ですが、その出来に納得いかず、一旦はお蔵入りとなります。詞曲とも再度練り直した結果、シティポップの祖ともいえるこの曲が生まれたのです。四七抜き長音階なのに都節、これまでの歌謡曲にはないまさに「ニュー・ミュージック」と言えました。

ぷりま音楽歳時記 2-19.変ホ短調

変ホ短調

変ホ短調の調号は♭が6つ。♯6つの嬰ニ短調と異名同音調、どちらも同じ音構成なのに、変ホ短調の方が使用頻度が高い印象です。嬰ニ短調は第7音(導音)がダブルシャープになることが多いので人気がないのかもしれません。

<変ホ短調の曲>

ポロネーズ 第2番(ショパン)

ショパンのポロネーズの中では、やや地味な印象のこの曲。変ホ短調ならではのくぐもった響きから「シベリアポロネーズ」と呼ばれることも。今回紹介するのは1964年のA.ルービンシュタインの演奏です。

今月の一冊 『細野観光1969-2021オフィシャルカタログ』

今月の一冊 『細野観光1969-2021オフィシャルカタログ』

2019年に開催された「細野晴臣デビュー50周年記念展」のオフィシャルカタログの増補版を今回は紹介します。細野晴臣氏は半世紀以上の長い音楽家としてのキャリアを誇ります。しかもその内容も日本語ロックの「はっぴいえんど」、テクノポップの「Y.M.O」で活動する等、大変多岐に渡るので、文書だけだとなかなか把握しにくいところがあります。それが図録であれば、ヴィジュアルで全容が眺められ、まさに絶好のガイドブックといえます。

展覧会へ行くと、つい図録が欲しくなってしまいます。手元に展覧会そのものがあるようで、とてもお得に感じられます。

ピアノで「カンタービレ」に弾く

知っていそうで実は知らない音楽用語「ソナタ」。その意味はイタリア語で「器楽曲」です。そして「ソナタ」の対義語が「カンタータ」です。その意味は「声楽曲」です。「カンタータ」から派生した用語がおなじみの「カンタービレ」です。その意味は「歌うように」です。

このように西洋音楽では、「器楽」と「声楽」を対の関係で扱います。そしていつでも「器楽」は「声楽」に憧れる関係にあります。現に「器楽のように」という意の音楽用語は見たこともありません。というのもキリスト教(特にカトリック)では教会内での器楽演奏は長らくタブー視されていました。教会内で許されていたのは、人の声、「声楽」のみだったのです。今では協会の象徴となったパイプオルガンですら、その使用は長年、公然の秘密だったのです。ピアノの鍵盤の機構もオルガン由来ですが、オルガンに関する記録が乏しいため、どのように鍵盤の機構が出来たのか、その起源は今だ謎のままです。

さてピアノの詩人・ショパンの流麗なメロディに影響を与えたのはベッリーニのオペラのアリアと言われます。ショパンはピアノで「ベルカント(美しい歌唱)」を目指したのです。ですが「カンタービレ」にピアノを弾くのは容易ではありません。ピアノは打弦楽器、一度打鍵すれば、音はすぐ減衰します。歌のように途中で息は膨らみません。やはり歌うように弾くには、様々な創意工夫が欠かせません。ピアノで「カンタービレ」に弾くことは、いつまでもついてまわる永遠のテーマかもしれません。一歩ずつでもいいのでそのテーマに近づきたいものです。

英語ですが「オルガンの起源」についての動画です。

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